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算数好きにする授業づくりのコツ

筑波大学附属小学校  細水 保宏
『算数授業のつくり方』 東洋館出版社 2011年

おはようございます。ご紹介にあずかりました細水です。横浜の公立小学校で15年間教員をし,現在,筑波大学附属小学校に勤務しています。2010年の4月からは副校長をしています。本校では副校長でも授業ができるので,今,5年生の算数授業を5時間持っています。
(中略)

教師自身が算数を好きになる

私の講演は脱線してしまうことが多いので,必ずしも時程通り進まないと思います。そこで,一番伝えたいことを先に言ってしまうことにします。

一番伝えたいことは,「算数好きにする授業づくりのコツ」です。

結論から言いますと,教師自身が算数を好きになることが一番大切です。算数の授業を楽しくすることはさほど難しくないのです。「算数の授業が楽しい」と子どもに言わせることはそんなに難しくない。たとえば踊りを踊ったり,おまけを出したり,ドラえもんを持ってきたり,何とかすれば算数の授業は楽しくなります。しかし,「算数を楽しくする」というのは,すごく難しいのです。教師自身が楽しんでいないと,笑顔でその楽しさは伝えられないからです。私の算数の授業が好きと言われても,次の先生になって算数が嫌いと言われたら教育になりません。できれば私が教えているときに,「算数が好き」と言わせたい。そして担任が変わって別の先生になっても,その言葉を子どもたちから言わせたいのです。

今日は,まず先生方に算数を好きになってもらいたいと心に決め,この講座にやってきました。私も頑張ります。みなさんも頑張ってください。

持っている力を出して,新しい力を手に入れる

私の体の半分は,先輩から受け継いだもので,残りの半分は子どもたちから学んだものだと思っています。最近,若い先生方に私が手に入れたものを引き渡したい,そうすれば若い先生が私の年になったときに,さらに後輩に引き渡していこうという気持ちになってくれるのではないかと思うようになりました。年齢ですかね。

先日,韓国に行き,向こうの指導主事の先生と話をする機会がありました。その先生に「日本の教育に学ぶべきものはなくなった」と言われたんです。カチンときまして「どうしてですか」と聞きました。その方は,ここ十数年の間に何度か文科省の招聘で日本に来られていて,教科書の検定制度や教科書の内容を日本から持ち帰っているんです。韓国では,すでに教育機器として50インチのテレビはどのクラスにもあるし,保健室のベッドは電動になっているのだそうです。日本でやっていることを全部輸入して,お金に糸目をつけずに教育改革に取り組んできたのですね。韓国の立派なところは,教育にたくさんお金をかけるところ。日本ももっとお金をかけなければいけないと思います。

その先生が,「あと一つ韓国に足りないのは,指導技術だ」と言われたのです。日本の先生方の教え方を韓国に取り入れたいと聞いて納得しました。日本の先生方の教え方は,世界でトップレベルなんですよ。日本の中にいるとあまり気づきませんが,外国に行くとよくわかります。

つい先日,アメリカのシカゴに行きました。シカゴ大学の哲学者,デューイが創ったシカゴ大学附属学校の視察です。シカゴ大学が4・4・4制を研究しているので,その研究の実際を視て,これからの日本はどうなるかを考えるためだったのですが,先生方の教え方はやはり日本が一番だと思いました。

算数の専門でない先生が算数を教えても,日本ではちゃんと次の学年に子どもを送り出せる指導技術がある。外国では落第制度があるので,落第させたとき,それを子どものせい,親のせいにしていて,自分の教え方を振り返っていない先生方も多いとの話を聞きました。 日本の先生方がもっている,すばらしい技術を韓国の人は手に入れたいと言っているわけです。この技術を輸出してしまったら日本に何が残るか,ちょっと不安になります。 でもよく考えてみると,そのときはきっと新しい力が生まれてくるのだと思います。

水泳で息つぎができない子どもは,水の中で息を吐かないからです。吐けば顔を出して吸う。教育も同じです。いま持っている力を全部出してみて,たりないものをたくさん手に入れておくほうがいいのではないかと私は思います。 韓国で,韓国の子どもたちと日本で行っているような授業を精一杯行ってきました。それをすることによって,新しい力が自分の中に生まれてくると信じているからです。 先生方も,自分の持っているものをもう一度見直し,吐き出してみて,新しいものをたくさん手に入れていただきたい,というのが一つの願いです。

息子が3歳ぐらいのときに,キャンプに行ってテントを張っていたら,川の上流からクワガタが流れてきました。私は虫が好きなので,それを捕まえて家で飼い始めました。息子はしばらくの間,クワガタというのは川に住んでいると思っていたようです。そのとき気づいたのですが,人間が知識を手に入れるときは,必ず周りのものと一緒に手に入れているのです。周りの環境,空気,学校だったら教室とか友達とかと一緒に手に入れる。それがないと忘れたり,誤りやすいものになってしまう。

今,子どもたちが知識を取り入れている場所はもしかしたら塾かもしれないし,テレビかもしれません。そうやって友達との関わりがないところで知識を手に入れると,手に入れる方法を誤ってしまっていたり,使えない知識として手に入れてしまったりしているのかもしれません。 知識の手の入れ方も,研究材料の一つだと思います。

今日は私の持っているものを全部吐き出そうと思っているので,そこでメモしたことは,この山口のこの環境,あるいは授業研究用のノートと共に思い出すと思います。ですから,新しい知識として得られるものはメモをして持って帰っていただけるとうれしいです。もちろん,この空気,周りの先生方,環境と共にです。

算数好きにする授業づくりのコツ その1

「はらはら,どきどき,わくわく」が算数好きを増やす

今の教育には「はらはら,どきどき,わくわく」が足りない

さぁ,そろそろ始めましょう。本日の時程でいうと[朝の会]オリエンテーションです。みなさんに一緒に体感していただきたいので,授業形式でお話をします。皆さんには生徒になっていただきたいと思います。

それでは講座Ⅰです。今の教育に一番たりないのは,「はらはら,どきどき,わくわく」です。

カードを用意してきました。そのカードを黒板に貼っていきます。そのカードを見て,何か気づいたところがあったら手を挙げて言ってください。

ちなみに算数好きにするコツの一つは,「はらはら,どきどき,わくわく」させることです。授業中できない子はどうしているかというと,じっと座って45分我慢しているのです。それでは絶対好きになれない。できない子が好きになるにはどうしたらいいか。指名することです。指名してつながりを持つ。「赤い糸で結ばれているんだよ」と教えてあげることです。ですから今日は,私は手を挙げていない人を当てます。何となく嫌でしょう。子どもも嫌な顔をします。嫌な顔をするのだけれども,授業が終わったら「よかった」と思います。それはつながっていることが意識できるからです。

はらはら,どきどき,わくわくは,このつながりを意識させるのにとても重要なんです。

教師の価値観を伝える

さぁ,始めましょう。最初はこのカード,2です。どうですか?クラスでこのカードを1枚同じように出しても,ここで手を挙げる子はさすがにいません。 だって,まだ出していないカードがこんなにあるとわかっているのに,2だけ出して手を挙げる子はいません。 2枚目の4を出すとピクッと動く子がいます。うなずいている人がいます。何だと思いますか。この列は反応がいいですね。 「この列の反応がいい」という一言は,実は教師の価値観を伝えているのです。授業で大切なことは,はらはら,どきどき,わくわくさせるとともに,教師の価値観を伝えることです。この技術を手に入れるとおもしろいですよ。そして授業も変わる。「この列の反応がいい」と言うことは,他のメンバーには「もっと反応を早くしろよ」と伝えているのです。こんな場面が今日は何回か出てくると思いますが,教師の価値観を伝えるというのはどういうことかを,まず手に入れることができたと思います。

おや,突然手がハンドマイクに変わるんですね。はい,これらのカードから何が言えると思いますか。

参加者 : はい,偶数です。

どうですか。センスいいでしょう。これだけで偶数。何となくいいですよね。それと,マイクを向けるとしゃべらない子がいますね。しゃべらないことはよくないと教えるのも,価値観を伝えることです。「マイクを向けられたときにしゃべりたくなくなる気持ちはわかるよ。でも,しゃべらないとみんなが動けなくなるから,『考え中です』とか,『ちょっと今わかりません』とか,反応しようよ」と,わからないときの動き方を教えるのも大切な指導です。実は,わからないときにどのように動いたらよいかの指導は,あまりしていないのが現状です。算数の授業を通して学級づくりもしていく。道徳や特活だけではなくて,授業を通してやっていく。その意味では,国語と算数は毎日あるので毎日学級づくりができるんですね。できない子どもを指名することを怖がることはないのです。そのときこそ,絶好の学級指導のチャンスなんですから。

2,4ときました。次に6が出たら,今の答えのように偶数が正解かもしれません。次に8がきました。(カードをめくって8を貼る)やはり偶数ですから,偶数と答えた先生,可能性がありますね。そちらの先生がうなずいたので聞いてみましょう。

参加者 : 2,2の2乗,2の3乗。

ずばらしい。これも可能性がありますね。とすると次は?だめだ,反応が鈍いクラスになった(笑)。2の2乗,2の3乗,次は?

参加者 : 2の4乗。

さすが。4乗はいくつだか知っていますか?

参加者 : 16。

ちゃんとついてきている。すてきなクラスですね。その次は?

参加者 : 32。

そうです。2の5乗は32。ところが次に11がくるのです。

(後略)


この後の授業がどう進むのかは,実際に書籍に当たって,確認してください。
予想を超える「はらはら,どきどき,わくわく」の展開。
細水先生の「エッ,ほんとうに」のつっこみに,「だって,こうなるからです」のやりとり。
そして,「うーん,なるほど」「やられた」という展開が待っています。