生きて働く力を育てる算数の学習指導
『初等教育資料』 東洋館出版社 2002年07月号
1 「生きて働く」のとらえ力
今,なぜ算数を学ぶのかと子どもたちや保護者に問われたら,私たちはどのように答えるのだろうか。- 日常生活の中で,買い物など計算を必要とするときに役立つから。
- 日常生活の中で,図形を見分けたり,その特徴をつかみ活用したりしていくことができるから。
- ものの量を測ったり,比べたりすることができ,便利だから。
- 筋道を立てて考えたり,先生や友達などに,自分の考えをわかりやすく説明したりするときに役立つから。
- 将来,自分の進路を決めるときに大事になるから。
2 なぜ算数を学ぶのか?
算数は,前述のように,日常生活に直接的に役立つことが多いという特性をもっている。そして,直接的であるが故に,多くの人にわかりやすくて納得してもらえるため,実用的な部分を強調することが多かったのではないだろうか。そして,評価も,他の観点に比べ知識・理解を重視する傾向があったと思われる。
しかし,そのほかにも算数教育の目的として考えたいものがある。
例えば,算数の成り立ってきた歴史を通して,人間の豊かな知恵の結晶として算数をとらえることである。また,算数のもつ簡潔,明瞭で的確なものの見方や考え方,そして,その結果として生み出されてきた算数の美しさにふれることは,子どもたちの知的好奇心を強く喚起する。
例えば,6年生の分数のわり算を考えてみよう。
実生活では,分数のわり算を使うことはまずない。したがって,計算が役立つか否かということだけでは,分数のわり算を学習する意味が薄れてきてしまう。
そこで,ここでは,計算ができることだけではなく,分数の見方や考え方,分数のわり算をつくり出していくときの考え方などを身に付けていくことを重視していく。
例えば,ある子どもが下の左側のような考え方をした。この考え方を何とか生かせないかと考えていたところ,別の子どもが「分母と分子に4をかければいいんだよ」と言い出した。この子どもは,同値分数をつくっていくときのアイデアを思い出したのであった。
この授業の後,子どもたちは,「算数っておもしろいんだね」「奥が深いのでびっくりした」という感想を書いていた。
このほかにも,図形(特に円)の面積の求め方を考えていくときなども,実生活との関連だけでは,その学ぶ目的を納得してくれず,ここでも図形の見方や求積の考え方などを重視していった。
このような実践から,確かな知識や技能と,算数におけるものの見方や考え方がともに身に付いたときに「生きて働く力」となるととらえたい。
3 「生きて働く力」の育成をめざして
子どもたちの学習観の転換
それでは「生きて働く力」を子どもたちにはぐくんでいくためには,どのような授業をつくっていったらよいのであろうか。
そのためには,まず,子どもたちの学習観(教師の授業観)を次のように変えていく必要がある。
- 問題や問いは,いつも先生が出し,それを子どもが答えるのではなく,自分自身で,問題や問いを見つけ考えていく。
- 算数は覚えるものととらえるのでなく,算数をつくり出していくととらえる。
- 自分の学習を振り返り,自己評価をし,次の目的を見いだす。
「生きて働く力」の育成をめざしたとき,まず,子どもたちが主体的に学習へ取り組んでいなくてはならない。そのためには,自ら問題を見いだしたり,次々と問いを連続させて探求し続けていこうとする態度をはぐくんでいきたい。
また,その際,ただ計算の手続きや解き方を覚えようとする学習では,意欲も高まらず持続もしにくい。既習事項をもとに新たな問題に取り組み,既習事項から新たなものをつくり出したという実感がもてたなら,意欲も高まり持続が図られてくるであろう。
さらに,子どもが,学習の途中や学習の後に,自分の学習を振り返り,今日の授業での自分の学習状況をつかむようにさせたい。今の自分の学習状況がつかめるということは,次の目的も明確になり,手立ても見つけやすくなるからである。
そして,特にこの自己評価能力の育成は,その前の二つの項目を支えていると考えている。
自己評価能力の育成をめざして
授業を通してよりよい自己評価ができるようにするには,いつも自分の学習を振り返り,批判したり反省したりしながら検討し,これが習慣化するようにしていく。
そして,自分の学習を振り返るためには,自分の学びの足跡がはっきりと残っており,いつでもそこに戻れ,そこから自分の姿をつかんでいけるようにしたい。
それには,子どものノートが最適な場と考えた。そこで,本校では算数の学習でも特に「かく活動」に注目し,ノートづくりに取り組んでいくことにした。
算数におけるノートの取り方
低・中・高学年での,かく活動のつながりは,次のようにとらえていった。
【低学年】
授業のいろいろな場面で,自分の考えを,絵や図,ことばなどで表現する。
【中学年】
他者(友達や先生)の考えそのものをかく。次に,その他者の考えについての自分の見方をかく。そして,自分の見方や考え方と他者とのつながりをつかむようにし,自分を見つめ直す。
【高学年】
他者との交流をより豊かにし,自分の考えをより高めていくために,問題の考え方や学習内容などについて,接続詞などに注意をし,筋道の立った表現によりまとめていく。