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1997宮城県教育研修センター長期研修員A研究 (その2) (その1) (その3)

コミュニケーション能力を伸ばす英語指導の一試み

-インプットからアウトプットへの流れを重視した授業設計を通して-

名取市立第一中学校 佐藤 俊隆

6 実態調査

6.1 生徒対象の実態調査

(1) 調査対象名取市立第一中学校2年生 191名
(2) 調査期日平成9年6月30日(月)

6.1.1 授業に対する意識

英語の授業を「楽しい」と感じている生徒が約30%,「どちらかというと楽しい」が44%で,74%の生徒が英語に対して前向きの意識を持っている。2年生になってから「英語の授業が楽しくなった」と答えている生徒も全体の15%に達している。

その理由をまとめたところ,それぞれ図9,図10のようになった。

   

英語の学習を「楽しい」「まあまあ楽しい」と感じている理由で多数を占めているのは,やはり「授業が楽しい」「面白い」「分かる」ということである。それ以外にも数多くの理由が挙げられている。これは,教師が英語の授業に多種多様な活動を盛り込むことによって,生徒に様々な動機づけを与えることに成功していることの表れであろう。

一方,英語の授業を「あまり楽しくない」「楽しくない」と感じている最大の理由は「授業が難しい」「分からない」ということである。

6.1.2 評価に対する意識

「先生にほめられると『やる気』がでますか」という問いに対して,「やる気がでる」と答えている生徒が34 %,「どちらかというとそう思う」が40%となっており,英語の授業に対する意識とほぼ同じような結果が得られた。しかし一方では,4人に1人の割合で「あまり思わない」「そう思わない」と答えている。
  

また,具体的に「どんな時にほめられたのか」をたずねたところ,図12のような結果になった。意外なことに「ほめられたことがない」「よく分からない」「無回答」を合わせると,その数は40%にも達する。教師の意識としては生徒のよさを見つけほめるように心がけているつもりでも,生徒の内面に響くような的確な評価がまだまだ十分でないといえるのではないだろうか。また,上位に位置する「音読」や「ノートのまとめ方」は目に見える学習の結果を評価したものであるため,生徒の学習のプロセスに焦点を当てた評価は今後の課題といわなければならない。

さらに,「先生によくみてほしい,認めてほしい,と思うのはどんな時ですか」という質問に対する回答は,図13のような結果になった。



生徒の約4割が「特にない」か「無回答」となっている。また,「先生によくみてほしい」と思う事柄も,順番に変動が見られるものの,図12の質問に対する答えと同じような項目が並んでいる。教師が実際に何に重点をおいて評価を行っているかによって,生徒の学習は大きく変化するのである。教師の評価と生徒の学習意欲との関連の強さが,数字に表れている。生徒のコミュニケーション能力を育成しようとするならば,当然ながら,コミュニケーション活動を重視した評価を行うことが最も効果的である。

6.1.3 生徒が意欲的に取り組む学習活動



図14より,生徒が「楽しい」と感じている活動の多くは,動きを伴う学習や,教師や友達とかかわり合う学習であり,コミュニカティブな活動であることが分かる。それに対して,生徒が「楽しくない」と感じている活動は,どちらかというと教師主導の学習であったり,「英語で話す活動」のように生徒にとって情意フィルターの高い活動であるといえよう。

6.1.4 生徒が成就感を味わう学習活動



図15は,「インタビューゲームなどで新しく習ったことがうまく話せたり,自分の話す英語がシェーン先生に通じるとうれしい」「教科書の本文などがうまく読めるとうれしい」というような設問で,具体的な学習場面で「学習する喜び」を感ずるのはどんなときか,ということに焦点を絞って調査した結果をまとめたものである。ほとんどの項目で8割前後の生徒が「そう思う」「どちらかというとそう思う」と答えている。生徒は授業の中で予想以上に,「成功体験」を積み,学習の喜びを味わっていることが分かる。

6.1.5 テストと学習意欲のかかわり

「テストに授業の中で学習したことがたくさん出題されるとうれしい」と答えた生徒は過半数,「どちらかというとうれしい」という回答も合わせると84%という結果である。定期考査などによって生徒の学習状況を総括的に評価するときも,授業で実際に指導した事柄を評価するように努めることが大切である。
  

「テストとその後の授業への取り組み」についての調査結果も図16とほぼ同じであった。

「指導と評価の一体化」を図ることが,生徒の学習をさらに意欲的なものにしコミュニケーション能力を高めていくことが,繰り返し確認されている。大事なことは,それを実際に実践していくことである。授業で行ったコミュニケーション活動と同じスタイルの活動がテストに出題されるようになれば,生徒はコミュニケーション活動の大切さをさらに強く認識するはずである。知識や理解を高めるためだけではなく,コミュニケーション能力を育成するために,指導とその評価の工夫を積極的に進めなければならないのである。

6.2 教師対象の実態調査

(1)調査対象仙台教育事務所管内中学校英語科主任及び平成9年度中学校オーラル・コミュニケーション・セミナー受講者
(2)調査期日平成9年6月下旬~7月上旬
(3)標本数英語科主任21名+セミナー参加者19名

6.2.1 コミュニケーションを重視した指導と評価の実態



図18の3項目について,「そう思う」と答えた教師は平均8%であり,決して多いとはいえない。しかし,「どちらかというとそう思う」と考えている割合はほぼ70%に達している。一人一人の教師が,試行錯誤を重ねながら,生徒のコミュニケーション能力を伸ばすために真剣に取り組んでいることが伝わってくる。

6.2.2 四つの能力を伸ばすための指導の工夫の実態

  

図19,図20は「聞くこと」「話すこと」の指導の様子を示したものである。「聞くこと」では,ALTの母国の文化や習慣などを話題にしたスピーチを活用したり,英語の歌を取り入れた指導など,バラエティに富んだ実践が行われている。また,「話すこと」では,ALTとのインタラクションやスピーチ,スキット,ゲームなどが実践され,コミュニカティブな指導が広く行なわれていることが分かる。

  

図21は「読むこと」の指導についてであるが,コミュニケーションの力をつけるという観点からみて改善の余地があるように思われる。実践例の過半数が「音読の指導」の工夫にかかわっている。しかし「初歩的な外国語を読んで,書き手の意向などを理解する」という「読むこと」の学習のねらいからみると,内容理解にかかわる指導の工夫が不十分だと思われる。

「書くこと」の指導の実態では,「単語の小テスト」が27%,「ノート指導」が19%で,二つ合わせると半数近くに達しており,知識・理解にかかわる指導が主流となっていることが分かる。少数ではあるが,自由英作文や日記などによる自己表現の指導も試みられている。

6.2.3 観点別学習状況の評価の実態

四つの観点のそれぞれについて,具体的に実践されている評価方法を多い順に並べると次のようになる。
(1)コミュニケーションへの関心・意欲・態度① 日常の授業への取り組みを観察する。
② ゲームに対する取り組みを観察する。
③ ALTとの活動の様子を観察する。
(2)表現の能力① 自由英作文の作品を評価する。
② スピーチやスキットなどへの取り組みと完成度を評価する。
③ インタビューゲームなどへの取り組みを観察する。
④ 音読等の表現の工夫を評価する。
(3)理解の能力① 定期考査等で評価する。
② TorFやQ&Aの結果で評価する。
(4)言語や文化についての知識・理解① 定期考査等で評価する。
② 日常の授業への取り組みを観察する。
③ 課題解決学習への取り組みを観察する。
以上のように,観点別学習状況の評価が様々な方法でなされているが,それぞれの観点について,どんな内容を,どのように評価すればよいのか迷いつつ,よりよい評価の在り方を模索している様子がうかがわれる。一つ一つの「評価の観点」と「評価の対象となる能力」「その能力を育てる学習活動」,これらの関連をきちんと把握することが大切である。

6.3 実態調査のまとめ

生徒と教師を対象にした実態調査から,次の4点が明らかになった。

第一に,「英語が分かる」ということと「授業が楽しい」ということは,表裏一体の関係にあるということである。「英語の授業が楽しくない」と答えた生徒の多くが,その理由として「やっていることが難しくて,よく分からない」と答えている。生徒の学習意欲を支え,コミュニケーション能力を伸ばすには,「分かりやすく楽しい授業」を展開することが大切である。

第二に,評価の在り方が生徒の学習に方向性を与える,ということである。「コミュニケーションに対する関心・意欲・態度」を育てるには,授業で行うコミュニケーション活動において「関心・意欲・態度」を積極的に評価し,折りに触れて,生徒に「積極的にコミュニケーションを図ろうとする」ことの大切さを教えていかなければならない。

第三に,英語の授業がコミュニケーション活動を重視する授業へと着実に改善されつつあることである。しかし,その一方で,育てるべきコミュニケーション能力(例えば,「読むこと」の能力)に関する理解が徹底していないことも明らかになった。教科の目標をしっかりおさえ,バランスの取れたコミュニケーション能力を育成する指導を心掛けることが必要であることが分かった。

第四に,評価の在り方について,まだ確固とした方向性がつかめず,戸惑いがあることが分かった。具体的にどの場面で,何を,どのように評価したらよいか,試行錯誤を続けているといった状況である。特に,「コミュニケーションに対する関心・意欲・態度」や「言語や文化についての知識・理解」の評価の在り方について判然としないまま指導している様子がうかがわれた。

(その1) (その3)