わかる授業づくりの要点
1 日々の授業を吟味しよう
いま,英語教育をめぐる状況は,日に日に厳しさを増しています。
2020年度からの小学校英語の必修化に向け,小学校の先生方は,十分な研修も保障されないまま,試行錯誤を余儀なくされています。
中学校でも,「実践的なコミュニケーション能力」の育成を目指すコミュニケーション活動の工夫や充実が求められる一方で,「読むこと」「書くこと」の力を付ける指導,さらに,高校入試に対応する従来型の受験学力の向上という,保護者や生徒の願いも背負いながら,日々奮闘しています。
しかしその一方で,いろいろな要求に振り回されて,日々の授業が様々な活動を細切れにつないだだけのごった煮のような授業になっていはしないか,生徒の真の力を育てる授業になっているかどうか,冷静に省みる必要があります。
小学校英語活動では,児童があきずに興味・関心をもって取り組むには,「7分~10分単位の活動を組み合わせて行うこと」が必要と言われています。中学1年の前半までは,当たらずとも遠からずという感じがします。
しかし,中学1年の後半からは,少し事情が違うように思います。
自身を客観的に見つめる目がそだち始め,様々な社会的な課題に対する問題意識も高まる時期に入ってくるからです。
したがって,
・ 今授業で取り扱っている内容が,生徒の発達段階からかけ離れた幼稚なものになっていはしないか。
・ 生徒の興味関心を踏まえ,もっと学びたいという学習意欲をかき立てる内容になっているか。
・ これまで身に付けた知識や知恵を総動員し,級友と協力しながら解決に向けて取り組むのにふさわしい課題になっているか。
- などの視点から自らの授業の在り方を常に吟味し,
生徒が学ぶことの意義や必然性,楽しさを理解できるような創意工夫を積み重ねていく必要があるのではないでしょうか。
また,海外のニュースサイトや各種動画などを活用し,スポーツや映画,ポップスなどの新鮮な話題を積極的に取り入れたり, 環境問題や人権問題,南北問題などの今日的な問題を積極的に取り入れたりするなど,生徒の発達段階にふさわしい工夫をしたいものです。
生徒が手応えを感ずることができる授業,分かったという喜びを味わうことのできる授業, そして自分のメッセージをしっかり伝えられる授業を構築することが,教師にとって最も大切を仕事であると思います。
生徒の発達段階や実態をしっかり理解しながら,質的に高い授業を追求したいものです。
(1) 教師の側に伝えたいメッセージがある授業,それを生徒に伝える力がある授業
(2) 生徒一人一人の学びが生かされ,教材や友だちから学ぶ喜びが味わえる授業
(3) 授業で指導すべき基礎・基本を焦点化し,知らず知らずのうちに英語力が身に付くように構成された授業
(4) 「わかる授業」+「力がつく授業」+「豊かなコミュニケーションが展開される授業」
などの魅力あふれる授業づくりを,目指したいものですね。
2 ノート指導の意義を再評価しよう!
パソコンの普及により,どの教科の授業もワークシート全盛の感があります。
授業を効率よく進めるには,ワークシートが一番手軽な手だてなのでしょう。これで,本当の学力が身に付いていくのか心配です。
ワークシートの空欄を埋めることで完結する授業では,本来全体的かつ大きな脈絡の中で理解されるべき事柄が,暗記すべき知識として断片的にとらえられてしまい,生徒の真の学びを阻害してしまう懸念さえあるように思います。
やはり,生徒が自らの体験や既習事項,背景的な知識と対話しながら,大きな文脈の中で理解を深めていく,そんな学びを追求したいものです。
そのために,目と耳と口と手,そして,頭と心を,すなわち五感をフルに活用しながら,心が通い合うノートづくりを行いたいものです。
ノートを開く度に,
・ ○○ちゃんの発表は最高だったなぁ。
・ ○○くんの英作文,なかなかいいこと書いてたなぁ。
・ 発表するとき,すごく緊張したっけ。
- など,教室の光景が目に浮かび,授業の息づかいが伝わってくるようなノートができれば最高ですね。
授業で味わった学びの楽しさや感動,そして新たな気づきとともに,学びの軌跡をしっかりたどることができるノート,さらに深い学びへと導いてくれるようなノート,そんな「ノートづくり」をしっかり行わせたいものです。
授業づくりと関連させたノート指導心得
① 「ノートづくり」の指導をおろそかにしてはいけない ― 学び方を教え,表現力も育てよう!
② 「課題の出しっぱなし」は信頼を損なう ― 定期的にノートを点検し,努力を適切に評価しよう!
③ きちんと整理されたノートやオリジナリティにあふれたノートは,モニター上や教科通信等で紹介し,やる気を引き出そう!
④ ノートの評価は定期考査と同等かそれ以上に評価し,日常の努力の積み重ねこそ価値あるものであることを実感させよう!
⑤ 授業の中で学んだことや身に付けたことが≪生きる≫単元テストや定期考査を作成しよう!
3 文法学習は徹底的にわかりやすく
私自身,中学校時代は英語は苦手で,不得意でした。
思い返せば,
・ 教科書の内容が架空の登場人物によるつくり話が多く,真実味が感じられなかったこと。
・ 暗記主体の単語や文法中心の勉強に,全く面白みを感じなかったこと。
・ 学んだことが積み重なっていく実感が全くなかったこと
などがその要因として挙げられるような気がします。
「英語って結構面白いんだ」と思うようになったのは,高校に進学してからのことです。
通学途上の「汽車」の中で,単語の問題を出し合ったりしているうちに,自然に語彙力が付いたこと。そして,知っている語彙を手がかりに長文の内容を類推することの楽しみを知り,骨のある文章を読むことが楽しみになっていきました。
多くの文章を読みこなすうちに,自然に文法の理解も進んだように,記憶しています。
私と同じように文法でつまずく生徒が多いのは,今も変わらないようです。
「自然と調和した街並みや建築物をつくりたい」という夢をもって工学部に進学した私ですが,紆余曲折を経て,今は英語の教師として教壇に立っています。
英語に躓き苦手意識を持っていた私が,英語教師をしている。ならば,「生徒に同じような思いはさせまい」という強い思いをもって,様々な工夫を重ねてきました。
その工夫の中心が「文法学習を徹底的にわかりやすく」ということです。
詳しくは,その過程で生まれた財産の一つである「よくわかる英語教室」で,ご確認ください。
≪文法指導の基本コンセプト≫
① 英語の基本はbe動詞であることを,学年に関係なく繰り返し確認すること
② 文法事項の習熟を図るときは,主語をランダムに変えずに I, You, He, She, It, We, You, They の順番を基本とすること
③ 文法事項は細切れにせず,単元の始めにまとめて導入し,大きく理解させてから学習を進めること-「よくわかる英語教室」の活用
④ 新出文法事項を活用した自己表現を充実させ,教科通信などで互いの作品に触れさせ,意欲を高めること
⑤ 小テストや単元テスト,定期考査では,授業で用いた例文(身近な級友の活躍や努力を取り上げた文がよい)を繰り返し出題し,定着を図ること
4 生徒が自信を持って参加できる授業
英語教師として教えてきた学年は3年生が圧倒的に多いのですが,授業開きで「英語の授業についてどう思っていますか」と聞くと,
「英語の授業は何が何だか分かりません」
「英語は苦手です」
かなり多くの生徒からこのような答えが返ってきます。
そこで,
ターゲットセンテンスは,基本的にはそのクラスの生徒を主語とし, その生徒がいま夢中になっていることや頑張っていることを織り込んだ英文で,提示します。
板書には,必ずその生徒の似顔絵を即興で描き,当然,ノートにもその似顔絵も描くように指示します。
英語が自分たちの生活を表現したり,コミュニケーションを行ったりするツールであることに自然に気づかせるとともに, 抵抗なく自己表現に結び付けられるように配慮したいからです。
さらに,「新出単語」の意味は挙手で発表させ,英語が苦手な生徒も授業に自信をもって参加できるように配慮していました。
小さなことですが,生徒にとって,予習してきた努力や挙手して発表した勇気を誉められることは,嬉しく励みになるものです。
また,新出文法や音読の学習場面でも,自信をもって発表できるようなしくみも工夫してきました。詳細は「私論-指導と評価の一体化」のページでご確認ください。
① 「新出単語」の学習を,生徒の学習意欲を引き出す切り札に
② 「新出文法」の学習場面では,既有の知識(すでに生徒の中にできている英語の体系)との関連を明らかにして導入すること
③ 常に生徒の background knowledge を活性化させ,類推の力を働かせることの重要性を意識させ,「やればできる」という自信をもたせる
④ 「文法プリント」の学習の流れ(心,耳,目,口,手,頭)
5 「評価の在り方」が「生徒の学習の在り方」を決定する
「指導と評価の一体化」とは,教師の視点から問題とされることが多いのですが,私は生徒の側に立った「指導と評価の一体化」について考えることこそが,英語教師に求められていると思っています。
生徒にとっての「指導と評価の一体化」とは,「授業で習ったことや家庭で学習したことがしっかり評価されること」に他なりません。
ありていですが,これが私の結論です。
定期考査となると,宿題にしていたワークブックから問題を出したり,教科書準拠の問題集を参考にして問題をつくったり,授業の中で指導していない事柄を出題する先生方が意外に多いように思います。
授業などでどんなに努力しても,その努力したことを定期考査などで適切に評価されなければ,じきに学習意欲は失われ,生徒の瞳から輝きが消えていきます。
私たち英語教師は「授業をきちんと受けていると,よく分かり,英語の学力も着実に伸びていく」と生徒が実感できるような評価をしたいものです。
そうすれば,苦手意識をもつ生徒も,3か月で「英語大好き人間」に変身させることができると,確信しています。
① 「指導と評価の一体化」は口当たりのよいキャッチコピーにしてはいけない
② 「授業をきちんと受けていると力がつくし,定期考査でも努力に見合った成績が上げられる」と生徒が安心して打ち込める授業づくりを心がける
③ 「指導と評価の一体化」は「基礎・基本」の定着を確実にする
6 学習している内容そのものが生徒にとって興味・関心の高いものを探すこと
誤解を恐れずに言うと,中学校の英語の授業で取り扱っている中味を日本語にすると,小学校の中学年から高学年にふさわしい内容のものがほとんどではないかと思います。
特に中1,中2で扱う内容は,小学校の外国語活動の中で,すでに扱っている内容と重なっていると言っても過言ではありません。
したがって,中学生にとっては幼稚過ぎる内容が多く,いささか食傷気味になっているのではないかと危惧しています。
中学生という年代は,「本物」と「ニセモノ」の違いを峻別する力を持ち始める年代であり,またその力を育てていくべき年代と,私は考えています。
だからこそ,先生方には本物を提示する努力を怠ってほしくないのです。
① heavyなテーマでも,否,むしろheavyなテーマの方が
② 生徒の自己表現をうまく引き出すこと
7 英語の教師としての基礎基本
・ The first step in teaching is to enjoy it.
・ Speech is silver, 'smile' is golden.
・ Gestures are a classroom language understood by all students.
・ Be punctual when you begin and when you stop.